研究背景
近年、世界中でキャッシュレス化が注目されている。日本でも2019年10月1日の消費税率引き上げに伴い、消費税率引き上げ後の9ヶ月間に限り、中小・小規模事業者によるキャッシュレス手段を使ったポイント還元を支援する事業を施行した。しかし、日本国内におけるキャッシュレス決済比率は諸外国と比較しても低く、キャッシュレス化は非常に遅れている現状である。そこで本研究では、日本のキャッシュレス化が遅れている現状を把握し、諸外国の事例を参考にしながら、日本におけるキャッシュレス化推進を提案し、キャッシュレス化の今後を考察する。
キャッシュレスの概要
経済産業省が平成30年に公表した「キャッシュレス・ビジョン」の中では「物理的な現金(紙幣・貨幣)を使用しなくても活動できる状態」と定義されている。
経済産業省「キャッシュレス・ビジョン」
https://www.meti.go.jp/press/2018/04/20180411001/20180411001-1.pdf
諸外国のキャッシュレスの動向
図1に基づき、世界主要国の決済比率を見ると、韓国は94.7%に達するなど、キャッシュレス化が進展している国でも40%から70%台に到達するなか、日本は24.2%にとどまる。諸外国比でみた日本のキャッシュレス決済比率は、相対的に低い値にあるとわかる。

しかし調べていると面白いことが判明した。図2、表1によると、日本人は世界的に見ても現金以外の決済手段を多数保有していることがわかる。2016年は約8手段、2017年は約8.6手段と、毎年0.5手段ずつ増えている。これはシンガポールに次いで大きな値であり、加えて、日本ではスマホ決済に代表されるQR決済が普及しており、利用可能は決済手段はさらに増加すると想定される。


日本のキャッシュレスの現状
2020年のキャッシュレス決済比率を概算すると、キャッシュレス決済額が前年比で約3%増加した一方で民間最終消費支出が5.5%減少し、29%にまで達したものと見られる。(図4)

キャッシュレス決済比率は決済額を民間最終消費支出で除して図られる指標である。
普及阻害要因の分析
先行研究の分析による、諸外国でキャッシュレス社会を促進させた要因と、日本が現金主義化した要因をまとめる。
- クレジットカードやデビットカードが普及した国は、日本と比較してインフラ整備が整っている
- 非現金決済の進んでいる国は、国民にカードを利用させるような製作や制度を実施している
- 小切手の代替手段としてデビットカードが用いられるようになった
- 日本人はカード決済に対して強い抵抗を持っている
提案
政府やカード会社は、使いたいと思えるような政策や制度を打ち出す
2019年から2020年にかけて経済産業省が行ったポイント還元事業でキャッシュレス化の土台は多少作られたと感じている。そこから日本でキャッシュレス化をより促進させるには、国民が使いたいと思えるような政策や制度を続けて打ち出すことだと考える。クレジットカードは現金に代わるものといった考えから脱却し、カード決済は現金決済よりも我々にメリットをもたらすという印象を国民に植え付ければ、日本人はよりクレジットカードを利用するのではないか。
日本ではほぼ未開拓であるデビットカードの利用を促進させる
クレジットカードでの買い物は借金をしていると考える利用者がいるのも事実であり、デビットカードは真逆の機能を持っている。口座からすぐに引き落とされるというシステムはそういったネガティブなイメージを持つ層にも問題なく利用してもらえると考える。日本人はクレジットカードよりデビットカードの方が保有枚数は多いにも関わらずここまで利用率が低いのは、クレジットカードとデビットカードの特性を理解している人が少ないからだと考える。近年、Suicaなど交通系ICカードの普及でインフラの整備は進んでいるため、今がデビットカードを推進する絶好の機会であると私は考える。
スマホ決済と仮想通貨を用いた決済の政策や制度を打ち出す
スマホ決済の中でも主流なのがQRコード決済である。2019年から2020年にかけて経済産業省が行ったポイント還元事業で注目され、様々な飲食店で利用できることになった。また、クレジットカードと連携させることでチャージする手間も省けるため、さらに人気が高まった。QRコード決済はクレジットカードやデビットカード同様に小銭を扱う煩わしさがなかったり、決済時に残高が表示されるため計画的な利用が可能であったりとメリットも多い。
仮想通貨についてはまだまだ発展途上ではあるが、中国は2022年2月の北京冬季五輪でデジタル人民元を世界に発表する準備を着々と進めている。国が発行するデジタル通貨はビットコインとは異なり、価格変動が少ないため安心して利用できる。各種非現金決済では不可能であったことが可能になり、仮想通貨は痒い所に手が届くための一役を担うかもしれない。
まとめ
キャッシュレス決済が浸透すれば、決済そのものを便利にするだけでなく、現金流通を支えている社会コストの削減につながるといわれている。
一方、決済事業者や行政が一体となりキャッシュレス化が進む中で、国のみならず地方自治体においても、キャッシュレス決済の浸透に本腰を入れることが地域全体の富の創出に繋がると考えている。
実際、キャッシュレス・ポイント還元事業が、地方自治体や地域を支える金融機関にどのように影響を与えるのかについて今後注目する必要があると考える。
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