概要
伸長-短縮サイクル(ストレッチ・ショートニング・サイクル;SSC)を伴うドロップジャンプの際、台高や着地直後の跳躍の主観的努力度を変化させることで、着地による外力の筋の伸展程度が直後の主観的努力による短縮性筋力発揮の調節にどのように関わるのかについて調べ、その調節メカニズムを動作学の観点から検討した。
1. はじめに
筋活動には,等尺性筋活動,短縮性筋活動,伸張性筋活動の3つのタイプがある(NSCA JAPAN, 2010).筋が受動的に伸長された直後に能動的に短縮する筋活動の組み合わせは,伸張-短縮サイクル(ストレッチ・ショートニング・サイクル;SSC)と呼ばれ,筋長が変化していない状態から短縮するよりも大きな力やパワーを発揮できるとされている(深代,2000).これまでSSC発生時の主観的努力と客観的出力との関係については知られていない.そこで,本研究では,SSCを伴うドロップジャンプの際,台高あるいは着地直後の跳躍の主観的努力度を変化させることによって,着地による外力の筋の伸長程度が直後の主観的努力による短縮性筋力発揮の調節にどのように関わるのかについて調べ,その調節メカニズムを動作学の観点から検討することを目的とした.
2. 方法
本研究では,健常な男子大学生10名を被験者とした.被験者に両手を腰に当て,スタンディングアップBOX(D-5499,ダンノ製)の3段階の台高(10,20および30 cm)から,マットスイッチ(FSE-KDMS90,フォーアシスト製)上に両脚で飛び降り,腕の振り込み動作なしのドロップジャンプを最大努力(以下,100%)で行ってもらった.その後,それぞれの高さから80%および60%の主観的努力度で同様にドロップジャンプを行ってもらった.台高と主観的努力度はランダム化して被験者に提示した.100%の跳躍高に主観的努力度をかけたものを目標とし,目標の上下5%以内の試技を成功試技として扱った.設定した台高3条件,主観的努力度3条件,合計9条件で得られた接地時間,滞空時間,接地滞空比,跳躍高,RJ Index,パワー,各関節角度および角速度は,全被験者を一群として平均および標準偏差を算出した.そして,各変数について,台高と主観的努力度を被験者内要因とした二要因分散分析を行った.

3. 結果および考察
跳躍高(図1)では,台高および主観的努力度に有意な主効果が見られ(それぞれF(2, 18) = 20.919, p < .001; F(2, 18) = 236.003, p < .001),台高が高くなるほど,あるいは主観的努力度が高いほど,跳躍高は高くなった.その間の下肢の動作について詳しく見てみると,接地時の股関節および膝関節角度では主観的努力度(F(2, 18) = 15.321, p < .001; F(2, 18) = 14.448, p = .001),足関節角度では台高(F(2, 18) = 5.939, p = .029)に主効果が見られた.その後の下降局面では,足関節角速度に台高の主効果が見られ(F(2, 18) = 32.292, p < .001),上昇局面では,股関節および膝関節の角速度に主観的努力度の主効果が認められた(F(2, 18) = 63.919, p < .001; F(2, 18) = 23.168, p < .001).その結果,離地時には,股関節および膝関節角度に主観的努力度の主効果(それぞれF(2, 18) = 15.321, p < .001; F(2, 18) = 14.448, p = .001),足関節角度に台高の主効果(F(2, 18) = 5.939, p = .029)が見られた.
台高が高くなった場合には,受動的に得られる地面反力が大きくなり,SSCの作用によって発揮パワーが大きくなって跳躍高が高くなった.その際,接地時から下降して最下点まで,最下点から上昇して離地するまでの股関節および膝関節の動作は同等であった.それに対して,足関節は,接地時にその後に受動的に得られる地面反力に抗するためにより伸展して接地しており,下降局面では伸展した分大きくかつ速く屈曲した.そして,その後の上昇に関わる下腿後面の筋腱複合体が大きくかつ速く伸展されて弾性エネルギーが蓄えられ,その後の上昇局面において、足関節の大きくかつ速い伸展を引き起こしたと考えられる.
主観的努力度が高くなった場合,接地時に股関節および膝関節をより屈曲させておき,下降局面でより屈曲されたことによって得られた弾性エネルギーを続く上昇局面で用い,股関節および膝関節を大きくかつ速く伸展することでより高く跳躍していた.このように,主観的努力度の変化に対しては,着地後の能動的な跳躍のための準備動作が行われたり,用いられるSSC能力や発揮パワーが調節されたりして,跳躍高をコントロールしていることが分かった.
よって,台高の変化に伴って受動的に得られる外力の変化に対しては,足関節の動作の調節で対応し,主観的努力度の変化に対しては,着地後の能動的な跳躍のための股関節および膝関節の準備動作や,用いられるSSC能力や発揮パワーの調節によって,跳躍高をコントロールしていると考えられた.
コメント